小学生クラシック音楽体験プログラム 音ハピ とびらコンサート
伊賀市文化都市協会が三重大学との地域連携事業として取り組む「小学生クラシック音楽体験プログラム 音ハピ とびらコンサート」について、同大学教育学部の川村有美教授の寄稿を紹介します。
【小学生クラシック音楽体験プログラム 音ハピ とびらコンサート】
今、“体験”の重要性がクローズアップされています。文部科学省は「ヒト・モノや実社会に実際に触れ、かかわり合う『直接体験』が重要」(1)と述べています。間接体験や疑似体験では得られない、身体全体を使って、じっくり、深く、対象へ関わっていくことが、直接体験の意義です。
しかし、体験が重視されると、今度は、体験自体が商品化・パッケージ化されてしまい、「受験対策として、〇〇体験をしておいた方が有利」「少しでも多くの体験をしておいた方が得策」といった「体験消費社会」(2)になりつつあります。これは、効率性を第一義として体験活動を購入・消費する考え方です。
大学院生だったゼミ指導での一場面を、今でも鮮明に覚えています。
「合理化のなかで効率を優先するあまり、教育でも『無駄』と言って省いてきたことが多い。けれど、手間をかけるべきことまで、切り捨ててきたのではないか」という恩師のお言葉です。
私の専門分野である音楽で考えてみます。人間には音として聴きとれる可聴範囲があります。人間の聴覚は、可聴範囲の上限を超えた超高周波の音(ハイパーソニック・サウンド)を、聴きとることが不可能とされています。合理化のなかでは、人間の耳で聴きとれない音は、「無駄」なものとして切り捨てられてきました。例えば、CDやインターネット等でデジタル化された音楽は、ハイパーソニック・サウンドを意図的に省いています。まさに、効率重視、無駄の排除です。
しかしながら、大橋力の先行研究(3)では、ハイパーソニック・サウンドが、人間の脳機能や心理的な側面に大変有効であることが証明されています。同時に、音・音楽を、聴覚だけで聴くのではなく、“皮膚感覚をも通じてまるごと聴き味わう”意味も、見直されています。デジタル音楽を聴く行為と生演奏を聴き味わう行為の違いが、ここにあります。
「小学生クラシック音楽体験プログラム 音ハピ とびらコンサート」では、「聴く・観る・感じる・参加する」音楽体験を目指しています。小学生だけに限らず、地域住民の方々と一緒に、音楽について語りたいと願ってもいます。まさに、一人ひとりが、自分の身体をまるごと使い、他者と関わり合いながら音楽を豊かに体験するコンサートです。一見すると、とても非効率なコンサートですが、こうした一つひとつの丁寧な積み重ねが、音楽体験から音楽経験へ昇華していくことにつながるのだろうと考えています。
三重大学教育学部教授 川村 有美
注 (1)文部科学省ホームページ「体験活動の教育的意義」 (2026年1月5日閲覧)https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/04121502/055/003.htm
(2)おおたとしまさ(2025)『子どもの体験 学びと格差 −負の連鎖を断ち切るために−』文藝春秋
(3)大橋力(2003)『音と文明−音の環境学ことはじめ−』岩波書店
